もし将来「子どもが欲しい」と思ったそのときに、“今”の生活や知識不足が影響して、スムーズに妊娠・出産ができなかったら…?
【カラダとココロの教室】今回は、長野県看護協会で不妊・不育専門相談員を務める北原光子さんにインタビュー。 妊娠に悩む大人たちの相談に日々のっている北原さんだからこそ感じている、今の中高生に「これだけは知っておいてほしい!」と願うメッセージをお聞きしました。
目次
- 「生理がある=いつでも妊娠できる」は間違い?
- 「生理痛はガマン」が将来の不妊につながることも
- 男子も無関係じゃない!「射精」と「性機能」のリアル
- 大切なのは「自分の気持ち」と「相手へのリスペクト」
- 最後にーー「未来の自分」を助けられるのは、今のあなた

「生理がある=いつでも妊娠できる」は間違い?
ーー中高生にとって「妊娠」はまだ少し先の話かもしれませんが、「大人になれば、赤ちゃんは欲しいと思ったときに授かれる」と思っている若い方が多い気がします。
そうですね。多くの中高生、そして大人でさえも「生理があるうちは、いつでも妊娠できる」と誤解していることが多いんです。実際は、妊娠には「適齢期(産みどき)」があるんですよ。
ーー妊娠には、年齢のリミットがあるということですか?
はい。医学的に妊娠しやすい時期は、20代〜30代前半といわれています。女性の卵子は、生まれたときに一生分の数が決まっており、その後新しく作られることはありません。年齢が上がると卵子や精子は、数が少なくなるとともに質も低下し、40代になると自然妊娠はぐっと難しくなります。
今、女性が初めて子どもを産む平均年齢は31歳と言われています。そのため、30代後半、40代で出産する女性も多くいます。
ですが、「40代でも生理があるから大丈夫」と思い込み、いざ子どもが欲しいと思ったときに妊娠ができず、不妊の相談に来られるケースも少なくありません。
ーーこういった事実を中高生が知る機会は少なそうですね。
そうなんです。学校で受精の仕組みは学ぶことはあっても、「いつまで産めるか」といった話は、ほとんど触れられません。 だからこそ、「子どもが欲しいと思ったときに、すぐに叶うわけではないかもしれない」という知識を、今から持っておくことが大切なんです。

「生理痛はガマン」が将来の不妊につながることも
ーー女性の生理の不調について教えてください。
今の女子中高生のカラダの悩み、特に「生理(月経)」のトラブルが、将来の子宮や卵巣等の健康に直結することも実はあるんです。生理痛がひどかったり、生理不順だったりしても、「生理は痛くて当たり前」「ガマンすればいい」「市販薬を飲めば大丈夫」と思っていませんか?
ーーみんな痛いものだと思っていました。違うんですか?
動けない、集中できないなど、生活に支障が出るほどのつらい生理痛や周期が大きく乱れる生理不順は「ガマンするもの」ではなく、「カラダからのSOS」の場合もあるんです。
実はその裏に、
- 子宮内膜症の予備軍になっている
- 多嚢胞性卵巣症候群(卵巣に多数の卵胞ができて、排卵しにくくなる病気)
などの病気が隠れている場合もあります。
こうした病気に気づかないまま時間が経つと、将来妊娠を望んだときにはじめて発覚し、「もっと早く知っていれば治療ができたかもしれないのに」と本当に悔やむ思いをすることもあるんですよ。
ーー病院(婦人科)を受診する目安はありますか?
目安としては、
- 生理痛で毎回寝込んでしまう
- 鎮痛剤を飲まないと生活に支障が出るくらいつらい
- 鎮痛薬を飲んでもつらい(効かない)
- 生理の量がとても多い/極端に少ない
- 生理周期がいつもバラバラ
こうした状態が続く場合は、「そういう体質だから」と決めつけずに、ぜひ婦人科を受診してほしいですね。
最近は、生理痛や生理不順の治療として「低用量ピル」が使われることもあります。「ピル=避妊」のイメージがあるかもしれませんが、低用量ピルはホルモンバランスを整える薬で、生理痛を和らげたり、周期を安定させたり、「P M S (ピー・エム・エス)=月経前症候群(※)」を軽くしたりする治療にも使われています。
生理痛で学校生活や部活、恋愛まで制限されてしまうのはとてもつらい状況だと思います。自分の生活を大切にするための「選択肢のひとつ」としてピルがあることも知っておいてほしいです。
※PMS(Premenstrual Syndrome):生理が始まる3〜10日前から現れ、生理が始まると自然に軽くなる心と体の不調の総称。イライラ、気分の落ち込み、頭痛、むくみ、乳房の張り、過食などの症状があります。
ーー婦人科ではどんな診察が行われるのでしょうか?
「内診や内視鏡検査をされるのでは」と不安に思う方もいるかもしれませんが、中高生の診察では、基本的に内診や器具を使った検査を行うことはありません。
どうしても必要な場合を除き、問診やお腹の上からのエコー検査だけで診察ができます。だから安心して受診してくださいね。

男子も無関係じゃない!「射精」と「性機能」のリアル
ーー妊娠の話って「女子の問題」というイメージが強いですが、男子にも関係ありますか?
もちろんです!妊娠には精子と卵子の両方が必要ですから、当然、妊娠は女性と男性の問題です。
実は最近、射精障害や勃起障害など男性からの相談が増えているんですよ。
ーー具体的には、どのような相談があるんですか?
「性交渉中に射精できない」という相談が増えています。原因の一つとして考えられるのが、間違ったマスターベーション(セルフプレジャー)の方法です。 自己流やネットで見た方法を続けた結果、「強い刺激じゃないと射精できない」状態になってしまう人もいます。
ーー中高生の男の子たちにこそ、伝えたいことはありますか?
最近は「マスターベーション」「オナニー」という言い方より、「セルフプレジャー(自分の身体や感覚を通して快感を得る行為)」という考え方が広がっています。だから、決して悪いことでも恥ずかしいことでもありません。
ただし、不潔な手や器具を使ったり、無理なやり方をしたりすると、感染症やケガ、将来の射精トラブルにつながることもあるため、清潔な状態かつ痛みのない方法で行うことが大切です。
そして、性のセルフケアと同じくらい大切なのが「自分のカラダを大切にすること」です。男性に特に意識してほしいのは次の3つ。
- 自分のカラダを乱暴に扱わないこと
- 痛みや違和感を「そのうち治る」と放置しないこと
- 毎日の生活習慣(睡眠・食事・ストレス・喫煙や飲酒)を整えること(精子の質にも影響します)
自分のカラダを大切にすることは、未来のあなた自身を守り、パートナーとの理想的な妊娠・出産につながります。

大切なのは「自分の気持ち」と「相手へのリスペクト」
ーー性に関して、改めて大事なことを教えてください。
今、小学生の時期から「プライベートゾーン」と呼ばれる大事なカラダの部分について教わります。この場所は「一番ココロに近いところ」で、命に直結する部分です。
もし誰かに傷つけられると、カラダだけでなくココロにも深い傷として残ってしまうことがあります。だからこそ、自分はもちろん相手のプライベートゾーンも大切にしてくださいね。
ーー将来の妊娠に関して、カラダのこと以外に今から心がけられることはありますか?
一番大切なのは、「人間関係(コミュニケーション)」。パートナーをつくることも、性交渉をすることも、誰とでもできることではありません。お互いを大切に思える関係性があって、初めて成り立つものです。
この関係性は、大人になって急にできるものではなく、中高生時代からの積み重ねが大切です。
ーー良い関係を築くためのアドバイスは?
次の「3つのステップ」を意識してみてください。
- 自分の気持ちに「気づく」 。
今、自分は嬉しいのか、悲しいのか、嫌なのか。周りの目や「こうあるべき」という考えを置いておいて、まずは自分の素直な感情を自覚する。 - 気持ちを相手に「伝える」。
「私はこう思うよ」「それは嫌だよ」と、言葉にして相手に伝える。 - 相手の気持ちを「受け止める・尊重する」。
自分と違う意見でも「あなたはそう思ったんだね」と一度受け止める。
(NPO エンパワメントかながわデートDV予防ワークショップより一部抜粋)
この3つができるようになると、恋愛だけでなく友達や家族など、さまざまな場面でお互いを大切にしながら良い関係を築いていくことができますよ。
ーーこの考え方は、恋愛以外の人間関係でも大切なんですね。
はい。相手が恋人でも、友達でも、家族でも、 大切なのは「自分の気持ち」と「相手へのリスペクト」です。「これをしても大丈夫かな」「今の自分は本当にしたいかな」と、自分の気持ちに目を向けながら、相手の気持ちも想像することが大切です。
相手が同性の場合でも、言葉で気持ちを伝えること。 違和感があれば立ち止まること。 そして、相手の「嫌だ」「ちょっと待って」というサインをきちんと尊重すること。 そうした積み重ねが、対等で大切にし合える関係につながっていくんです。
こうした関係性があってこそ、より親密な関係についても、安心して考えられるようになるんですよ。
ーーでは、パートナーとの性交渉で気をつけることはありますか?
性交渉は、どちらかが強要したり従ったりするものではありません。お互いが対等な立場で、同意があって、二人ともが安心して、気持ちよくいられる時間であること。これが大切です。
そのうえで大事なのが「避妊」です。「安全日だから大丈夫」「外に出せば妊娠しない」といった方法は、妊娠を防ぐ効果がとても低く、望まない妊娠につながるリスクがあるんです。
避妊はどちらか一方の責任ではなく二人の責任として、ピルやコンドームなど効果が確かめられている方法について話し合い、お互いの気持ちやカラダに合った方法を二人で選ぶことが大切です。

最後に──「未来の自分」を助けられるのは、今のあなた
不妊や不育の相談現場には、「もっと早く知っていれば、違う選択ができたかもしれない」と涙をこらえながら話す人たちがたくさんいます。
だからこそ、今の中高生のみなさんには、未来の自分が困らないように「今」を大切に生きてほしい。
- 性について正しい知識を持つ
- 生理の不調をガマンしない
- 男の子も女の子も、自分のカラダを大切に扱う
- お互いを大切にし合える関係を選ぶ
この一つひとつが、将来「妊娠したい」と思ったとき、あなたの人生を叶える力になります。
性について「ちょっと知りたい」「誰に聞いていいかわからない」というときは、若者向けの性教育WEBメディアもありますのでぜひチェックしてみてくださいね。
不安なことやカラダの悩みがあれば、私たちのような専門家や、信頼できる大人を頼ってください。親には言いにくいことでも、保健室の先生や後述の地域の相談窓口など、皆さんの味方はたくさんいます。ぜひ「正しい場所」を頼っていただければと思います。
性やカラダの知識は、あなたの未来を守る道具のひとつです。今日知ったことが、いつかあなたを守り、支えてくれる力になりますように。
《長野県にある相談窓口》
長野県不妊・不育専門相談センター
専用ダイヤル:0263-35-1012
毎週火・木曜日(祝日は除く)10時〜16時及び毎週土曜日(祝日は除く)13時〜16時
https://www.pref.nagano.lg.jp/shippei-kansen/kyoiku/jidofukushi/boshi/funin.html
性と健康の助産師相談(長野県 性と健康の相談支援事業)
専用ダイヤル:0263-31-0015
毎週木曜日(祝日は除く)10時〜14時または19時〜21時
にんしんSOSながの(妊産婦等生活援助事業)
電話相談:0120-68-1192(フリーダイヤル)
メール相談:ninsinsos@keiroen.or.jp
https://www.pref.nagano.lg.jp/kodomo-katei/ninshinsosnagano.html
りんどうハートながの(性暴力被害者支援センター)
相談専用電話:#8891 または0120-8891-77(フリーダイヤル)
24時間ホットライン:026-235-7123(通話料有料)
https://www.pref.nagano.lg.jp/jinken-danjo/kurashi/jinkendanjo/jinken/main/rindouheart_nagano.html
取材協力:
公益社団法人 長野県看護協会
長野県不妊・不育専門相談センター(相談員・北原光子さん)
「赤ちゃんを授かりたいな」と思っているすべての人のための相談窓口。「赤ちゃんがほしいのに、なかなか妊娠しない」「妊娠しても流産をくり返してしまう」などの不妊や不育の悩み、治療方法や治療費などについて、医師や看護職などの専門家が相談にのってくれる機関です。
※この記事は、2025年11月25日に行われた取材の情報に基づいて作成しております。
